2008年1月熊本日日新聞「読者のひろば」掲載

取り残される統合失調症

 

統合失調症をご存知だろうか。統合失調症は百人に一人の割合で主に二十代に発病し、その症状は、そこにいない人の声が聞こえる「幻聴」や不合理であり得ないことを確信する「妄想」が代表的で、治療を受けないと物事をうまくこなす力が次第に低下する、脳の病気である。かつては精神分裂病と呼ばれ不治の精神病と怖れられてきたが、現代では薬物療法と疾病教育やリハビリが進み、内服をしながらであれば三割は元通りに社会復帰し、入退院を繰り返す人は一割程度で、早期に治療すればさらに経過は良くなっている。

にもかかわらず県内八千六百の精神科病床の内、実に五千床が統合失調症の患者で占められており、全国的にもそれらの人の社会復帰は進んでいない。なぜだろうか。

一般に回復には時間がかかり、高額療養費への補助はあっても地域で生活するための住居確保や作業所など復職のリハビリへの補助が乏しく、入院に比べて通院治療が本人や家族に経済的な負担を強いることや、精神障害の人の犯罪率は一般の人より低いにもかかわらず事件を起こすとマスコミが精神科受診歴に触れ、さらには罪を犯した人の刑を軽くする法廷戦術として弁護士が安易に精神鑑定を求める最近の刑事裁判の風潮などが、患者を取り巻く一般の人たちに無用な恐怖感を抱かせ、患者家族の心理的負担になっていることなどが挙げられよう。

昨今自殺と関係が深いうつ病を初め、精神障害にもようやく社会の目が注がれるようになった。しかし多くの患者とその将来を憂える家族がいるにもかかわらず、統合失調症は今なお根強い偏見とよくならないとの誤解から、暗黙の内に差別され、日陰に追い遣られている気がしてならない。残念なことである。

 

(2008年1月熊本日日新聞「読者のひろば」掲載、一部2014年1月改稿)